「エアコンをつけているから換気はいらない」と思っていませんか? これは大きな間違いです。
一般的な家庭用ルームエアコンやオフィスのパッケージエアコンは、部屋の中の空気を吸い込み、温度を変えて吐き出しているだけで、外の空気との入れ替え(換気)は行っていません。
建築設備の世界では、「換気」と「空調」は明確に区別されます。この記事では、それぞれの役割の違いと、両者を効率よく両立させるための技術について解説します。
1. 換気(Ventilation):汚れた空気を捨てる
換気の主目的は、室内の空気環境を清浄に保つことです。人間が呼吸すれば二酸化炭素が増え、建材や家具からは化学物質(VOC)が放散され、料理をすれば臭いや水蒸気が発生します。これらを室外へ排出し、新鮮な外気を取り入れるのが換気です。
建築基準法では、シックハウス症候群対策として、原則として全ての居室に「24時間換気システム」の設置が義務付けられています。住宅であれば「0.5回/h」という基準があり、これは「2時間で部屋全体の空気がすべて入れ替わる」風量を確保することを意味します。
換気が不足すると…
- 二酸化炭素濃度の上昇による眠気、頭痛
- 結露やカビの発生
- ウイルスや細菌の滞留
2. 空調(Air Conditioning):空気を快適にする
空調(空気調和)の目的は、人が快適に過ごせるように、あるいは工場などで物品の品質を保つために、空気の「4要素」をコントロールすることです。
- 温度(Temperature): 暑さ寒さの調整
- 湿度(Humidity): ジメジメや乾燥の調整
- 気流(Airflow): 不快なドラフト(すきま風)を感じさせない風速・風向きの分布
- 清浄度(Cleanliness): フィルタによるホコリや花粉の除去
ここで重要なのは、空調機のフィルタ機能(清浄度)はあくまで「循環する空気のゴミを取る」ものであり、「二酸化炭素を酸素に変える」ような換気機能はないという点です。
3. 換気のジレンマと「全熱交換器」
ここに大きなジレンマがあります。換気は衛生上必須ですが、冷暖房中に窓を開けて換気をすると、せっかく適温にした空気が逃げてしまい、外の暑い(寒い)空気が入ってきます。これを空調用語で「外気負荷」と呼び、空調エネルギーの大きなロスとなります。
この問題を解決するのが全熱交換器(Total Heat Exchanger)です。商品名では三菱電機の「ロスナイ」などが有名です。
全熱交換器の仕組み
全熱交換器は、排気ファンと給気ファンがセットになった装置です。内部には特殊な紙などでできた「エレメント」があり、ここで排気と給気が交差します(混ざりはしません)。
- 夏の場合: 室内から捨てる「冷たくて乾いた空気」のエネルギーを、外から入ってくる「暑くて湿った空気」に移します。結果、外気は予冷・除湿されてから室内に入ります。
- 冬の場合: 室内から捨てる「暖かくて湿った空気」のエネルギーを、外から入ってくる「寒くて乾燥した空気」に移します。結果、外気は予熱・加湿されてから室内に入ります。
この熱回収により、換気をしながらも室内の温度変化を最小限に抑え、空調エネルギーを約20〜30%削減することができます。大規模ビルや高気密住宅の設計では、この「外気処理」をどう行うかが省エネの鍵となります。