ポンプを運転中に「ガラガラ」「キンキン」という、まるで砂利が流れているような金属音が聞こえたら、それは危険信号です。これは内部で気泡が発生・崩壊し、羽根車(インペラ)を破壊する「キャビテーション(空洞現象)」が起きている可能性があります。
キャビテーションはポンプの寿命を縮めるだけでなく、揚水不能や振動、騒音の原因となります。これを防ぐための指標がNPSH(Net Positive Suction Head:正味吸込水頭)です。ポンプ選定において揚程や流量と同じくらい重要なこの数値について解説します。
1. キャビテーションはなぜ起きる?
水は100℃で沸騰しますが、それは1気圧(大気圧)の話です。圧力が下がれば、もっと低い温度でも沸騰します(富士山の頂上でお湯が早く沸くのと同じ原理です)。真空に近い状態になれば、常温の水でも沸騰し始めます。
ポンプは水を吸い込むために、吸込口の中心付近を負圧(低圧)にします。もし、配管抵抗が大きすぎたり、吸い上げ高さが高すぎたりして、吸込口の圧力が「その水温における飽和水蒸気圧」を下回ってしまうと、水が液体のままでいられなくなり、瞬時に沸騰して気泡が発生します。
この気泡は、ポンプ内部の高圧部へ移動すると瞬時に押し潰されて消滅します。この消滅する瞬間に微小な部分で数千気圧もの衝撃圧が発生し、これがインペラを侵食(エロージョン)し、破壊してしまうのです。
2. 必要NPSH vs 有効NPSH
キャビテーションを防ぐためには、吸込口の圧力に「余裕」を持たせる必要があります。その条件式は以下の通りです。
有効NPSH (NPSHa) > 必要NPSH (NPSHr) + 余裕値
(※一般的に余裕値は0.5m〜1.0m程度を見込みます)
必要NPSH (NPSH3 / NPSHr)
これはポンプメーカーが提示する値です。「このポンプを定格流量で動かすなら、吸込口に最低でもこれだけの圧力を残しておいてください」という、ポンプ自身の性能限界を示す要求値です。
ポンプの性能曲線図に記載されており、一般的に流量が増えるほど、必要NPSHの値も大きくなります。
有効NPSH (NPSHa)
これは設備設計者が計算すべき値です。「実際の配管ルートや水槽の位置関係で、ポンプ吸込口にどれだけの圧力が残るか」を示します。計算式は以下の通りです。
NPSHa = (Pa - Pv) / (ρg) ± hs - hf
- Pa: 水面に働く圧力(開放水槽なら大気圧)
- Pv: その水温における飽和水蒸気圧
- hs: 吸込実揚程(水面がポンプより上ならプラス、下ならマイナス)
- hf: 吸込配管の摩擦損失ヘッド
3. 設計での対策ポイント
計算の結果、NPSHa < NPSHr となってしまった場合、キャビテーションが発生します。これを防ぐには、NPSHaを大きくする(=吸込側の条件を良くする)しかありません。
対策1:吸込配管の摩擦損失(hf)を減らす
最も基本的で効果的な対策です。
- 吸込配管の口径を1サイズ上げる(流速を下げる)。
- 配管ルートを短くする。
- エルボやバルブの数を減らす。
- ストレーナの目詰まりを管理する。
ポンプの吐出側は細くても動力が増えるだけですが、吸込側は太く短くが鉄則です。
対策2:水槽の位置を高くする(hs)
「吸い上げ配管(ポンプより下に水面がある)」はNPSH的に非常に不利です。可能な限り「押し込み配管(ポンプより上に水槽がある)」にして、重力で圧力を稼ぐように配置します。
対策3:水温に注意する(Pv)
温水(ボイラー給水や還り管)の場合、飽和水蒸気圧(Pv)が高くなるため、NPSHaが激減します。
例えば、20℃の水の飽和水蒸気圧は約0.02気圧ですが、80℃では約0.47気圧にもなります。高温水を扱う場合は、水槽を高く設置して十分な押し込み圧力を確保する必要があります。