Envikits / 技術コラム
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空気線図の基礎:相対湿度と絶対湿度の違いとは?

空調設備の設計において、最も基本的かつ重要なツールが「湿り空気線図(Psychrometric Chart)」です。設計者であれば毎日のように目にする図表ですが、初学者のうちは「乾球温度」は分かっても、「相対湿度」と「絶対湿度」の使い分けや、エンタルピーの概念でつまずくことが少なくありません。

この記事では、実務設計者が最低限押さえておくべき空気の性質と、Envikitsの「Psychro Canvas」でも採用している計算ロジック(Tetensの式)について、具体的な事例を交えて詳しく解説します。

1. 「湿度」には2つの意味がある

日常会話で「今日は湿度が高いね」と言うとき、それは通常「相対湿度(Relative Humidity: RH)」を指しています。しかし、エンジニアリングの世界、特に結露計算や除湿設計、空調機のコイル選定においては、「絶対湿度(Absolute Humidity: x)」の方が遥かに重要です。

相対湿度 (%):空気の「空き容量」

相対湿度とは、その気温における「飽和水蒸気量(空気が持てる水蒸気の限界)」に対して、現在どれくらいの水分が含まれているかの割合です。

重要なのは、空気は温度が高いほど、多くの水蒸気を持つことができる(飽和水蒸気量が大きくなる)という点です。つまり、空気中の水分量(絶対量)が変わらなくても、温度が上がれば「空き容量」が増えるため、相対湿度は下がります。逆に温度が下がれば相対湿度は上がります。

絶対湿度 (kg/kgDA):水分の「実量」

一方、絶対湿度(重量絶対湿度)は、乾き空気1kgあたりに含まれる水蒸気の重量(kg)そのものを指します。単位は `kg/kg(DA)` や `g/kg(DA)` で表されます(DAはDry Airの略)。

空調機で加湿や除湿を行わない限り、空気を温めたり冷やしたりしても、この絶対湿度は変化しません。これが、空気線図上で状態変化を追う際に絶対湿度が重要視される理由です。

💡 実務のポイント:冬場の乾燥

冬場、暖房をつけると「乾燥する」のはなぜでしょうか? 加湿器を使っていない場合、室内の水分量は増えも減りもしません。
例えば、外気(0℃、RH50%)を換気で取り込み、室内で20℃まで暖房したとします。このとき、水分量(絶対湿度 約0.0019kg/kg)は変わりませんが、温度上昇によって「水蒸気の定員」が急増するため、相対湿度は一気に10%台まで低下してしまいます。
これが「加熱による乾燥」のメカニズムであり、空気線図上では「右方向への水平移動(顕熱変化)」として表されます。

2. 結露のメカニズムと露点温度

「冷たいビールのコップに水滴がつく」。これが結露の典型例です。では、具体的に「何度まで冷えたら結露するのか」をどう予測すればよいでしょうか。ここで登場するのが露点温度(Dew Point Temperature: DP)です。

露点温度の求め方

ある空気の状態点から、空気線図上で「左(温度が下がる方向)」へ水平に移動していくと、いつか相対湿度100%のライン(飽和曲線)にぶつかります。この時の温度が露点温度です。
この温度を下回ると、空気はそれ以上の水分を気体として保持できなくなり、余剰分が液体(水滴)へと変化します。

実務での活用例:ダクトの結露防止

例えば、天井裏に冷風(12℃)を送るダクトを通す場合を考えます。天井裏の空気が「30℃、RH70%」だったとしましょう。
この空気の露点温度は約24℃です。もしダクト表面温度が24℃を下回ると、ダクト表面で結露が発生し、天井材を濡らす事故につながります。
冷風は12℃ですから、断熱材を巻かなければダクト表面温度はほぼ12℃となり、確実に結露します。設計者は、ダクト表面温度が24℃以上になるように、適切な厚さの保温材(グラスウール等)を選定しなければなりません。

3. エンタルピーとは何か?

空気線図には斜めの線がたくさん引かれていますが、これが「比エンタルピー(Specific Enthalpy)」の等値線です。単位は `kJ/kg(DA)` です。

エンタルピーとは、簡単に言えば「空気が持っている全エネルギー量」のことです。空気のエネルギーは、以下の2つの要素の合計で決まります。

  • 顕熱(Sensible Heat): 温度によるエネルギー(空気を温めるのに必要な熱)
  • 潜熱(Latent Heat): 湿度によるエネルギー(水分を蒸発させるのに必要な熱)

「温度は低いけど湿気がすごい日」と「温度は高いけどカラッとした日」。どちらが空調機のエネルギーを食うでしょうか? これを比較するには、温度だけではなくエンタルピーを見る必要があります。
空調機の冷却能力計算(Q = G × Δh)において、このエンタルピー差(Δh)が決定的な役割を果たします。

4. 計算ロジック:Tetens(テテンス)の式

Envikitsの「Psychro Canvas」をはじめ、多くの空調計算ソフトでは、空気の状態値を求めるために計算式を用いています。空気線図を描くためには、まず「飽和水蒸気圧」を求める必要があります。これにはいくつかの近似式が存在しますが、実務で最も広く使われているのがTetens(テテンス)の式です。

Tetens式の概要

Tetensの式は、温度 `t` [℃] から飽和水蒸気圧 `Pws` [hPa] を求めるための経験式です。

Pws = 6.1078 × 10 ^ [ (7.5 × t) / (t + 237.3) ]

(※水の場合。氷点下では係数が変わります)

なぜTetens式なのか?

より厳密な式としてWexler-Hylandの式やGoff-Gratchの式がありますが、これらは計算項が多く非常に複雑です。一方、Tetensの式はシンプルな数式でありながら、空調設計で扱う温度範囲(0〜100℃程度)において誤差が極めて小さく(0.01%未満)、実用上の標準となっています。

Envikitsでは、このTetensの式を採用し、さらに建設地の標高(大気圧の変化)を考慮した補正を行うことで、高地での設計にも対応できる精度を確保しています。

まとめ

  • 相対湿度は「乾きやすさ」、絶対湿度は「水分の量」を表す。
  • 加熱・冷却(顕熱変化)では絶対湿度は変わらない。
  • 結露を防ぐには、対象物の表面温度を露点温度以上に保つ必要がある。
  • 空調機の能力計算には、温度と湿度の両方のエネルギーを含むエンタルピーを用いる。

これらの基本を理解した上で、Psychro Canvasを使って実際にプロットしてみると、空気の状態変化がより直感的に理解できるはずです。

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