建築現場において、設備設計者が最も頭を悩ませるのが「天井裏のスペース(天井懐)不足」です。梁や他の配管を避けるために、どうしてもダクトを平たく(扁平に)して納めざるを得ないことがあります。
しかし、「断面積さえ確保できていれば、どんな形でも風は流れる」と考えるのは危険です。極端に平たいダクトは、性能面や施工面で様々なデメリットを引き起こします。この記事では、角ダクトの縦横比(アスペクト比)の推奨値と、それを守るべき工学的な理由について解説します。
1. アスペクト比とは
角ダクトの長辺(W)と短辺(H)の比率のことです。
例えば、サイズが `W400 × H200` のダクトであれば、アスペクト比は `400 ÷ 200 = 2.0` となります。
これが `W800 × H100` になると、同じ断面積ですがアスペクト比は `8.0` になります。
一般的に、アスペクト比は「4:1」以下に抑えるのが望ましいとされています。国土交通省の「公共建築工事標準仕様書」や、空気調和・衛生工学会(SHASE)の基準においても、原則として4倍以下とすることが推奨されています。
2. 扁平ダクトの3つのデメリット
① 摩擦抵抗(圧力損失)の増大
流体が管内を流れるときの抵抗は、壁面との接触面積に比例します。同じ断面積でも、正方形に近いほど「濡れ縁長さ(周長)」は短くなり、平たくなるほど周長は長くなります。
- 400×200(面積800cm²): 周長 = (40+20)×2 = 120cm
- 800×100(面積800cm²): 周長 = (80+10)×2 = 180cm
上記のように、同じ風量を流すための面積でも、アスペクト比が高いと周長が1.5倍になり、それだけ空気が壁面と擦れる面積が増えます。これは圧力損失の増大を招き、必要なファン動力が大きくなる(=電気代の無駄)原因となります。
② 騒音と振動(ドラミング)
これが最も深刻な問題になり得ます。
平たいダクトの広い面(長辺側)は、スパンが長いため剛性が低く、ペコペコした状態になりがちです。ここを高速で空気が流れると、気流の乱れによって鉄板が太鼓のように振動し、「ボォー」「ドゥドゥドゥ」といった低周波騒音が発生します。これをドラミングと呼びます。
ドラミングを防ぐためには、ダクト内部に補強棒を入れたり、外部に補強アングルを取り付けたりする必要がありますが、これは製作コストと重量の増加を招きます。
③ 施工コストの増加
前述の通り、周長が長いということは、それだけ多くの鉄板材料(亜鉛鉄板)を使用するということです。また、保温工事を行う際も、表面積が増えるため保温材のコストと手間が増加します。
「高さを抑えるため」に平たくしたはずが、結果として材料費と工費を押し上げることになってしまいます。
3. 設計時のポイント
天井懐が狭い場合でも、安易にアスペクト比10倍のようなダクトを設計してはいけません。以下のような代替案を検討しましょう。
- ダクトの分割: 巨大な扁平ダクト1本ではなく、適切なアスペクト比のダクト2本に分割して並列させる。
- 丸ダクトの採用: スパイラルダクトなどの丸ダクトは、形状的に最も効率が良く(アスペクト比1:1相当)、高静圧でも振動しにくい特性があります。小口径を複数本通すことで解決できる場合があります。
- 梁貫通の検討: 梁下を通すのではなく、構造設計者と協議して梁貫通スリーブを設け、高さを稼ぐ。
Envikitsの「Duct System Helper」では、選定された角ダクトのアスペクト比を自動計算し、極端な形状にならないようチェックすることができます。